この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 だけれど、今はどうだ。

 ふとした時に蘇る記憶にも、知らぬ間に心に巣食っているトラウマに怯えながらも、以前よりも生命力に満ちている。

 ――「むしろ望むところです」

 その言葉は、以前の彼女だと考えられなかった。

 彼女が元気になってくれたのは喜ぶべき事。ローデリヒ自身が望んでいた事。
 彼女があまりにも可哀想だと思ったから、諦めて欲しくないと思ったから。

 同情だったじゃないか、最初は。

 だから、この胸を抉り取られるような痛みは、

 きっと気のせいだ。
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