この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】

前夜戦。(他)

 月明かりは心もとない――、イーヴォはそう思いつつ短槍を振るった。

 首都キルシュの中心部に位置する王城は、普段と比べて浮き足立っている。城のほぼ中心にあるパーティー用のホールの一つで、アルヴォネン王国の王太子夫妻の歓迎パーティーが行われていた。

 勿論、王城の中でも最大のパーティーホール。参加するキルシュライトの貴族も数多い。他国の来賓をもてなす為に、大規模かつ豪華なものになっているはず。

 イーヴォ自身も本来ならば伯爵家の子息として参加する予定だったが、そうもいかなくなってしまった。

 近衛騎士として王城を巡回していると、〝招待されていない客〟の多い事。

 パーティーが行われている周辺は、魔術的な明かりで照らされているが、それ以外の使用人用の寮や来賓用の休憩室辺りは暗い。
 来賓用の休憩室は基本的に男女が揃って入る場所なので、あまり明るくするのも野暮だけれど。


「だけど、今回ばかりは明るくした方がいいんじゃねぇの?って思わねぇ?思うよな?」


 両刃の穂先を自らに向け、柄の先で相手をいなしながら、軽い調子でイーヴォは同意を求めた。
 勿論、敵対する相手から返事など返ってくるはずもない。イーヴォも軽い愚痴のように話していただけだった。
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