この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ゼルマさんの太鼓判を押されたので、取り敢えずどのドレスを選んでもそんな変な事にはならないだろう。並べられたドレスを順に吟味していく。

 と、そこで一つのドレスに目が釘付けになった。
 ドレスの形自体は他と同じエンパイアライン。色は深い紺色で、レースや胸元に銀色に輝く宝石が付けられたシンプルなデザイン。
 ……この銀色の宝石、ダイアモンドなんじゃない?

 ジーッと私がドレスを見ていたのに気付いたのか、ローちゃんがゆっくりと起き上がる。そして、私が気になっていたドレスの前でおすわりをした。

 ……これはローちゃんの意思なのか、それともローデリヒさんの意思なのか。

 まあ、どっちでもいっか!
 ローちゃんに背中を押された気分になりながら、即決した。


「これにします!」

「はい。分かりました」


 ゼルマさんは皺の多い顔で微笑んだ。若い侍女さん達が、ゼルマさんの指示でテキパキと他のドレスを片付けたり、私を浴室へ引っ張って行こうとする。

 えっ、パーティー行く前ってお風呂入るの?!

 そして、空気のように私達についてきたデブ猫に向かって叫んだ。


「ローちゃん脱衣場にはついてこないで!」
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