この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 私の言葉に頷いたローデリヒさんは、何やら言葉を唱えた。ペンダントを外して、着いてきてくれたゼルマさんに預ける。

 覚悟していたからか、以前と比べて衝撃は少なかった。それでもずっと耳元で囁き続ける知らない声達は、悪意も善意も伝えてくる。私の意志とは別に。

 そして、殺意も。

 頭の中が声でいっぱいになる。気持ち悪い。

 それでも私は踏みとどまる。あのローブの女の子に会いに行かなければいけない。知らない人達の細かい感情について、私は一々深く考える事を放棄する。


「大丈夫か?」


 私の顔を覗き込むようにローデリヒさんは屈んだ。彼の海色の瞳が心配そうに揺らいでいる。私は笑みを作った。


「大丈夫です」

「そうか。無理はするな。正直に言え」

「ありがとうございます」


 ローデリヒさんはそっと手を差し出してくる。骨張った、私より大きい男の人の手。今は手袋に覆われている。
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