この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 私は無意識に差し出されたその手に、自分の手を重ねた。


 ――……やはり、会わせたくはない。


 ポツリ、と漏れ出た本音のような言葉が伝わってくる。きっと、ローデリヒさんの感情。

 身長の高い彼を見上げると、もう既に会場の方へ向いていて、どんな顔をしているか分からなかった。


「行くぞ」

「はい」


 私の返答を聞くなり、ギュッと手を握り締められた。
 扉の外は少し薄暗い廊下が続いている。沢山のカーテンのような幕が見える。

 きっとあれがパーティーホールに繋がる道。

 唾を飲み込む。手袋を嵌めたお互いの手の温度が、布越しに混じった。

 両脇に立っていた騎士が、ローデリヒさんの合図と共に幕を開ける。急に強い光が差し込んできた。
 眼下に見えるのは沢山の着飾った男女。パーティーホール全てが見下ろせる。

 だからこそよく分かった。

 皆、私達に注目しているって。
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