この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 目の前の階段をローデリヒさんの導きでゆっくりと降りる。穴が開きそうな位の沢山の視線を肌で感じる。
 見上げるのが怖くて、人の表情が見れなくて、自然と少し俯き気味になる。
 そしてようやく理解した。

 この焦燥感に似た感情は、

 〝恐怖〟、だ――。

 大勢の人が怖いなんて思ったことはない。思ったことは、ない……はず。ないはずだ。

 どうしてこんなにも、恐怖を覚えるのか。

 私達が階段の一番下の段を降り終える。誰かが声を張り上げている。階段から離れて、先程通ってきた道を見上げた。

 ふくよかな体型の国王様が、イーナさん程の歳若い女の人を連れて堂々と階段に現れる。

 いっぱいいっぱいだった。

 得体の知れない恐怖と戦いながら、その場に立っているのに精一杯だった。自然と手に力がこもる。ローデリヒさんがチラリと私を見たけれど、私は真っ直ぐ国王様達を見つめていた。

 国王様達よりも私の方に視線がまだ集まったりしている。私がこの場にいることが、物珍しそうな感情が伝わってくる。
< 199 / 654 >

この作品をシェア

pagetop