この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「やあ、アリサ。久しぶりだね」


 ゆったりとした笑みを浮かべたルーカス殿下が、私に話し掛けてくる。感じるのは、ただただ私を案じる気持ちだけ。そこに悪意は含まれていない。
 完全な善意だった。

 アルヴォネンの王太子夫妻は、じっと私の動きを見つめている。
 何か返事をしようと口を開いた。


 ――ごめんなさい。アリサ。


 唐突だった。

 私の声が音になるよりも先に、少女が私に向かって謝る。訳が分からずに、思わず口を噤んでしまった途端。

 全ての照明が落ちた。
< 202 / 654 >

この作品をシェア

pagetop