この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 黒装束達が隙を逃すことはなかった。
 私の首筋にひんやりとした感覚が押し当てられる。


「動くな」


 聞きなれない男の抑えた声が周囲を牽制する。ローデリヒさんは勿論、アルヴォネンの王太子夫妻もその場で止まった。全員険しい顔をしている。

 顔から血の気が引く。
 これって大ピンチだ。

 波のようにローデリヒさんとアルヴォネンの王太子夫妻の様子が伝わって、パーティーホールの剣戟が段々と止んで行った。

 私は男に刃物を突き付けられているよりも先に、無意識のうちに男の手を振り払ったけれど、あらかじめ予期していたらしい相手に逆に抑え込まれていた。

 一人に両手首を後ろ手で拘束され、もう一人に刃物を突き付けられている状態。
 完全に私の反応を予測していたかのような、早業だった。


「そのまま動くな」


 私を半ば引き摺るようにして、黒装束達はホールの外へと移動する。私を人質に取られているからか、騎士達もまともに動けないらしい。
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