この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ローデリヒさんは険しい顔で素早く周囲に視線を巡らせている。冷静に黒装束達を分析しているのと、私への心配が能力を介して伝わってきた。

 アルヴォネンの王太子妃は、飛び出しそうになっているのをルーカス殿下に止められていた。

 彼女の内心はかなり取り乱していて、ぐちゃぐちゃなまま私の耳元で囁いている。


 ――そんな、そんな、駄目だわ。はやく助けなきゃ。


 この黒装束達は、アルヴォネンの人間じゃないの?

 ルーカス殿下の方も、かなり悔しそうな表情をしている。表情を裏切らずに内面も同じことを思っているようだった。


 ――駄目よ。だって、だって。


 わがままを言う子供のように、だってを続ける。無垢な少女のように。


 ――だって、アリサは男の人が怖いのに。
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