この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
徐々に近付いてくる地面から、無意識に腹部を庇うように手を回す。
どこか既視感を感じた。前にもあったような気がした。雨が降っていた日じゃない。
もっともっと私自身が待ち望んでいた日。
気がはやっていたのだ。あの時は。
そして屋敷の階段の下から、驚いたように海色の瞳を見開いた〝彼〟の姿が頭をよぎる。
「ぶっ?!」
なにか思い出せそうだった時、思いっきり顔面から床にダイブした。絶対擦りむいたと鼻をおさえながら顔を上げると、淡い水色のドレスが視界を過ぎる。
「奥方様から離れてもらおうか」
どこから取り出したのかは分からない。けれど、あまり長くない剣を黒装束の男達に突きつけながら、私を相手から隠すようにヴァーレリーちゃんが堂々と立っている。
「いやあ、奥方様。見事な蹴りでしたよ。あんなに上手く回し蹴りで急所に当てるなんて、どこで訓練したんですか?」
「ま、回し蹴り?」
ごめんちょっと何言ってるのか分からない。
軽い調子で話しかけてきた赤髪の男は、私を挟むようにしてヴァーレリーちゃんの反対側にいた。私の身長よりも低いくらいの槍を持っている。穂先は黒装束達に向けられていた。
どこか既視感を感じた。前にもあったような気がした。雨が降っていた日じゃない。
もっともっと私自身が待ち望んでいた日。
気がはやっていたのだ。あの時は。
そして屋敷の階段の下から、驚いたように海色の瞳を見開いた〝彼〟の姿が頭をよぎる。
「ぶっ?!」
なにか思い出せそうだった時、思いっきり顔面から床にダイブした。絶対擦りむいたと鼻をおさえながら顔を上げると、淡い水色のドレスが視界を過ぎる。
「奥方様から離れてもらおうか」
どこから取り出したのかは分からない。けれど、あまり長くない剣を黒装束の男達に突きつけながら、私を相手から隠すようにヴァーレリーちゃんが堂々と立っている。
「いやあ、奥方様。見事な蹴りでしたよ。あんなに上手く回し蹴りで急所に当てるなんて、どこで訓練したんですか?」
「ま、回し蹴り?」
ごめんちょっと何言ってるのか分からない。
軽い調子で話しかけてきた赤髪の男は、私を挟むようにしてヴァーレリーちゃんの反対側にいた。私の身長よりも低いくらいの槍を持っている。穂先は黒装束達に向けられていた。