この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 12歳。違和感は感じていた。文官や武官の中で、偉い地位にいると紹介された人の数人の姿を見かけない事について。爵位持ちの貴族と覚えていた人が、毎年発行される貴族図鑑から消えていた事について。

 でも、自分のことで精一杯で気にかける余裕なんてなかった。というか、何が起こっているのか、全く予想すらしていなかったと言ってもいい。
 温室育ちの令嬢が、周囲に情報を遮られていた令嬢が、残酷な事が行われているなんて、想像すら出来なかった。

 私はこのままいくとルーカスと結婚する。でも、お互いの意思は結婚したくないという事で合意していた。

 だから一貴族令嬢として、家の為にどこかの家に嫁いで、その相手と子供を作って、家の為に尽くしていくのだろうと幼い私は勝手に思っていた。

 私の能力が、そんな軽々しいもののはずがなかったのに。

 そして13歳。私は全てを知ることになる。
 一つ年上の王太子であるルーカスでさえも、情報が遮られていたらしい。ルーカスが必死で暴いた一連の事実を突き付けられるまで、私は全くの無知だったのだ――。



「これ、何?」
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