この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 半日、と口の中でその言葉を反芻した。少しだけ馬車の旅が長引いた事にうんざりする。でも護衛騎士に当たるつもりもないので、「ありがとう」と言ってそのまま帰した。

 スープに口をつける。野菜の沢山入ったスープにほんのりと身体を温められながら、未だに降り止まないどころか激しさを増していく雨音を聞いていた。


「雨、酷くなってきたのに予定通りに出発出来るのかな?」


 部屋の隅に控えていた侍女に問い掛けると、侍女も「そうですね……」と苦笑混じりに口を開く。


「このまま激しい雨が降り続ければと難しいかと。アリサ様と私は馬車の中にいますが、護衛の騎士達は皆様外ですから……」

「そうよね。……雨は地面もぬかるんでしまうし。早く帰りたい」

「国王陛下はアリサ様を重用なさっておいでですから……」


 重用、という言葉に黙り込んでしまった。
 国王陛下に重用はされている。けれど、それは歪な関係だった。それを、この侍女は知らない。

 最近、ポツポツと私の立場についての疑問が他の人から湧いている。やはり王太子ルーカスの婚約者に内定しているのだろう、と最初は思っているようだったけれど、ルーカスを差し置いて私を連れ回す歪さに段々皆が首を傾げつつある。
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