この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 おじ様に怪しまれないように、余計な事は言わないようにと、口を噤む事が多くなった。まだルーカスと起こした小さな反乱は継続中。いつ終わるかも分からない。気が遠くなりそうだった。

 それでもおじ様が、私が、新たに道を踏み外す未来の方が怖かった。


「……もう、お風呂に入って寝るね。きっと明日も早いだろうし」

「分かりました」


 食事を食べ終え、狭い浴室に入った。この小さな街で一番の宿だと言っていたけれど、王城や公爵家の暮らしに慣れている私には随分と質素なものに見える。
 あまり寝心地の良くない布団に入って目を閉じる。

 初日から土砂崩れは幸先の悪いな、なんて呑気な事を思いながら。



 二日目は予定通りに出発した。雨は夜中のうちに止んでいたらしい。相変わらず空は薄汚れた厚い雲が掛かっていたけれど、地面は湿っぽい位。雨の匂いが残る道を一行は進んでいた。

 迂回するという事だったが、天気があまり良くない予想なので、一日遅れで大きな街の宿に泊まる計画らしい。だからそれ程距離はなかった為か、雨が降り出す前に一行は大きな街についた。

 タイミング良く、宿に着いた所でポツリポツリと雨が降り出す。街に住んでいるここ一帯の領主と、おじ様が歓談している部屋の隅に控えながら、私はうんざりしていた。
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