この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 力任せに開けようとしているらしく、錠を壊そうと剣で扉を刺すような音と共に馬車に衝撃が響く。


「アリサ様?!」


 外から侍女の甲高い悲鳴が聞こえる。
 護衛騎士達はあんなに居たのにどうなったの?と手が震えた。

 けれど、怒声と共に馬車の揺れがおさまったり、また揺れたりしているので、全滅している訳ではないらしい。馬車に直接危害を加えられている訳だから、おそらく護衛騎士達の中には無事でない人もいるはずだ。

 もう一度大きく馬車が揺れた。
 馬車の片側の扉が大きく軋み、歪む。幸いにも誰かが入れるようでは無かったが、ボタボタと歪んだ扉の隙間から水滴が滴り落ちてくる。

 きっとここが壊れるのも時間の問題。


「お逃げ下さい。アリサ様」


 侍女の一人が反対側の扉の鍵を開ける。挟み込まれるよりは、と思ったのだろう。
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