この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 侍女の声が弱まっていた。
 彼女だって置いて行かれた一人だった。

 国王陛下は王国で一番偉い人。
 その人に害が及ばないように、護衛騎士が動くのは当たり前。だから、私の馬車に残された護衛騎士は少なかったのだろう。


「全員で、無事に逃げ延びよう」


 自己を奮い立たせる為の呟きだった。侍女達も自分自身の危機が迫っているのに、主である私の事を優先してくれている。

 私が逃げ延びる事は、侍女達が逃げ延びる事にも繋がるから。

 侍女達は私の呟きを雨の中でも拾ってくれた。私達にはまだ希望があった。それが具体的なものでなくても、起こっている非日常的な現在が続く方が想像出来なかった。

 強襲してきた犯人の顔すら知らない。
 ただ、森の中を走り続けるだけ。何度も何度も木の根っこに足を取られた。ドレスの裾を踏んで転びそうになった。



 ある程度走り続けた後、漸く私達は止まった。
 強襲してきた犯人達が一向に追い掛けてくる様子を見せない。きっと護衛騎士達が食い止めてくれたのだろうと。
< 233 / 654 >

この作品をシェア

pagetop