この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 はっきりとその想いが届いた時、私は弾かれるように立ち上がった。


「み、味方じゃないっ!」


 吐き捨てるように周りの侍女に告げると、隣の侍女の手を引っ張って再び駆け出す。ヘロヘロになった身体に鞭を打ちながら、方角も分からずにひたすら足を動かす。

 遠くの方から雨に紛れて、声が聞こえる。
 知らない男の人達の激しい、怒声。

 それが段々と大きくなっていく。激しい雨の音が遮らないくらいの近く。
 私の周りにいた女の人がガタガタ震えている。必死に声を漏らさないように、口元を手で覆っている人もいた。ほとんど泣いている侍女もいる。

 雨音に祈った。唯一の救いだった。私達の音を消して欲しいと。

 見つかっては駄目。
 見つかったら終わってしまう。私の貴族令嬢としての全てが。例え無事だとしても名前が穢れてしまう。
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