この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 すぐ後ろで男の人の声が聞こえる。
 一人。悲鳴が上がった。

 思わず後ろを振り返ろうとした。それでも今まで手を引いていた侍女に、逆に手を引かれて叶わなかった。

 また一人。絹を裂くような悲鳴が上がる。
 繋いでいた手に力が込められる。きっと見るな、という事。

 声が聞こえる。心が聞こえる。
 私の近くを走ってくれていた彼女達がどんどん犠牲になっていく。

 とうとう私の手を引いていた侍女が、私から手を離した。


「……お逃げ下さい。はやく!!」


 強い口調と共に背中を押された。転びそうになりながら、私は足を動かし続ける。

 後ろは振り向けなかった。

 悔しくて、辛くて、怖くて。
 頬を流れる熱いものは、雨粒なんかじゃなかった。
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