この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「……だいぶ腫れているな。可哀想に」
彼が手を翳すとみるみるうちに治っていく。私の中で彼はすごい魔法使いなのだろう、と勝手に位置付けられた。
「……少しは落ち着いたか?何があったんだ?」
「えっと……、いきなり馬車が襲われて……、おじ様を守る為に護衛騎士達は私達を置いて行ったから、私は馬車が壊される前に侍女と外へ逃げたの……」
鼻がツンと痛んだ。護衛騎士がおじ様について行ったと知った時、絶望しそうだった。
怖かった、本当に怖かった。
自分がこれからどうなってしまうのか。
貴族令嬢の純潔は大事だと、ずっと周りから言われ続けてきた。過去の人の例を出されて、穢される位なら死んだ方がマシな人生だろうとも言われてきた。
だから、死ななければならないと思った。
でも、いざ振り上げられた刃を見た時、何も考えられなかった。
死ななければならないと思ったけれど、自分から死にたいとは思ったことはないから。
周りの景色が滲んでいく。少年の顔も揺らいで、輪郭すら朧気になる。
「置いて行った?」
少年の顔色が変わった。ただの家族だったら、置いて行ったと言われると薄情に思うだろう。
彼が手を翳すとみるみるうちに治っていく。私の中で彼はすごい魔法使いなのだろう、と勝手に位置付けられた。
「……少しは落ち着いたか?何があったんだ?」
「えっと……、いきなり馬車が襲われて……、おじ様を守る為に護衛騎士達は私達を置いて行ったから、私は馬車が壊される前に侍女と外へ逃げたの……」
鼻がツンと痛んだ。護衛騎士がおじ様について行ったと知った時、絶望しそうだった。
怖かった、本当に怖かった。
自分がこれからどうなってしまうのか。
貴族令嬢の純潔は大事だと、ずっと周りから言われ続けてきた。過去の人の例を出されて、穢される位なら死んだ方がマシな人生だろうとも言われてきた。
だから、死ななければならないと思った。
でも、いざ振り上げられた刃を見た時、何も考えられなかった。
死ななければならないと思ったけれど、自分から死にたいとは思ったことはないから。
周りの景色が滲んでいく。少年の顔も揺らいで、輪郭すら朧気になる。
「置いて行った?」
少年の顔色が変わった。ただの家族だったら、置いて行ったと言われると薄情に思うだろう。