この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
文官が生地の広い傘を持っているので、おじ様が濡れることはない。馬車はどこかに置いてきたのだろう。護衛騎士を含めて歩きだった。
少年はおじ様の問いに食い下がる。
「いいや。私が間一髪の所でこの娘を助けたんだ。知る権利くらいはあるだろう?」
おじ様が数秒黙り込む。雨の降る音が二人の間に流れた。
「私の……親戚の娘だよ」
無難な回答をしたおじ様に、少年は牙を向いた。
「王族か?大した護衛も付けずにか?まだ子供なのにか?」
「全てこちら側の問題だよ。さあ、大人しく彼女を渡してもらおうか。彼女を助けてくれた事には感謝している。だけれど、国境を無断で越えられたとなっては、こちらもそれ相応の対応をしなければならない。国境の件は不問にするから、この場では何も無かった事にしようじゃないか」
少年は押し黙った。彼は指先が色を変える程、固く握り締める。
「殿下」
おじ様の背後にいた少年の部下らしき人が、諭すような声を出す。少年は「分かっている」と吐き捨てた。
私は流していた涙を手のひらで乱暴に拭った。そして立ち上がる。あれだけ痛んでいた足は、すっかり良くなっていた。
「助けてくれて、ありがとう」
少年はおじ様の問いに食い下がる。
「いいや。私が間一髪の所でこの娘を助けたんだ。知る権利くらいはあるだろう?」
おじ様が数秒黙り込む。雨の降る音が二人の間に流れた。
「私の……親戚の娘だよ」
無難な回答をしたおじ様に、少年は牙を向いた。
「王族か?大した護衛も付けずにか?まだ子供なのにか?」
「全てこちら側の問題だよ。さあ、大人しく彼女を渡してもらおうか。彼女を助けてくれた事には感謝している。だけれど、国境を無断で越えられたとなっては、こちらもそれ相応の対応をしなければならない。国境の件は不問にするから、この場では何も無かった事にしようじゃないか」
少年は押し黙った。彼は指先が色を変える程、固く握り締める。
「殿下」
おじ様の背後にいた少年の部下らしき人が、諭すような声を出す。少年は「分かっている」と吐き捨てた。
私は流していた涙を手のひらで乱暴に拭った。そして立ち上がる。あれだけ痛んでいた足は、すっかり良くなっていた。
「助けてくれて、ありがとう」