この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ギュッと私は両手の拳を握った。
 すぐ隣にいる人の整った顔が近付いてくる。骨張った手が頬に触れた瞬間、私は正面から裏拳打ちを夫にしていた。


「ぐっ?!」


 勢いよくベッドの下に背中から落ちる夫を見て、私はハッと我に返る。

 いくらなんでも王太子に裏拳は不味い。不味すぎる。


「え、ちょ、ご、ごめんなさい!!ごめんなさい!!勝手に手が……!!」


 夫の鼻を押さえていた手の隙間から、血っぽい赤い液体が見えたけど、魔法を使ったみたいですぐに元通りの姿を取り戻す。


「……やめておくか?」


 やや勢いを削がれたらしい彼が提案してきたが、初夜は大事なので続行を希望した。

 結果的に無事に初夜は過ごせた。
 ……夫になったばかりの王太子を、ボコボコにしてしまったけれど。
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