この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 アーベルがお腹の中にいた時と同じ現象。
 二度目ともなれば、すぐに自分が妊娠していると分かった。思わず口元が緩む。

 アーベルも小さくて、ぷくぷくとしていて、思わずギュッと抱き締めたくなる。
 自分のお腹を痛めて産んだ子供だ。可愛くない訳が無い。

 まだまだこれからお腹の中で大きくなる予定の子供は、どんな見た目をしているのだろうか。性別はどちらだろうか。

 下腹をそっと撫でると、じんわりとそこにいるはずの子供の温もりが伝わってくる気がした。

 きっと夫はかなり驚くだろうけど、喜んでくれるはず。
 アーベルと接している姿を見ていると、沢山可愛がってくれそう。

 夫婦仲は相変わらず進歩はないけれど、子供に対する愛情は疑っていない。
 侍女のゼルマには妊娠した事を伝えて、明日の朝帰ってくる予定の夫には、自分の口から言うつもりだった。


 言うつもりだったのに。


 夫が帰ってきた物音が聞こえて、私は逸る気持ちを抑えきれずに階段を降りる。彼はジギスムントと何やら話し込んでいるらしく、私の存在にまだ気付いていないようだった。

 階段の中腹。手摺りに手を乗せるようにして降りていた途端、いきなり顔から血の気が引いた。視界が回転する。
 手摺りを掴もうとした手は、するりと滑った。

 段々と近付いてくる地面に、思わず腹部を庇うように腕を交差させる。

 驚いたように海色の瞳を見開いた彼と目が合った瞬間、

 私の頭に衝撃が走った。
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