この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
(前編)仮面夫婦の――

記憶喪失前に伝えたかった事?

 ズキリ、と頭が鈍く痛む。

 そうだった。私は忘れてはいけなかったはずなんだ。
 でも、本当は全部全部忘れてしまって、なかった事にしたかった。ずっと目を背けていたいっていう根底の願望が、現実化しただけだった。

 私はアリサ・セシリア・キルシュライト。

 そして、前世が――達川有紗(たつかわありさ)新川(にいかわ)女子高校の二年生だった。

 頭を打った拍子に何故か前世の記憶が蘇って、今世の記憶がそっくり飛んでしまったような感じ。

 よくよく振り返ってみると、前世に何をしたかならばなんとなく思い出せるけど、友達や先生の名前は全く浮かんでこなかった。

 それに、私は前世と今世の日常生活の違いについて、違和感を感じる事もほとんどなかった。それも考えればおかしな話。
 現代日本と、地球の中世から近世ヨーロッパのような雰囲気を持つ魔法の世界なんて、最初は暮らしに適応するのに精一杯なはずなのに。
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