この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
彼の服を握り締めて、真っ直ぐに視線を合わせる。
本当は侍女のゼルマでもなく、誰よりも先に伝えたかった人だった。
「ローデリヒ様。……二人目、妊娠したようです。貴方に早く伝えたくて」
彼は私の言葉に虚をつかれたかのように固まった。口元が自然と綻ぶ。答えの分かりきっている問いを彼に投げ掛けた。
「喜んでくれますか?アーベルの時のように」
くしゃりと、行き場をなくした迷子の子供のように彼は顔を歪める。服を掴んだままの私の手を、彼は空いている手でそっと包み込む。壊れ物を扱う様な慎重な手つきで。
「貴女は……、記憶を失う前、それを私に伝えたかったんだな……」
独白のような彼の掠れた小さな声が、空気に溶けて消えた。
彼の骨張った手のひらからのひんやりとした体温が、仕草が、能力を使わなくても、彼が私を心配してくれているのを感じる。
「ああ、勿論だ。私の子供だ。可愛くない訳が無い」
彼が微笑む。その笑みは慈愛に満ちていて、まだまだ若いはずなのに、一人の、父親だった。
本当は侍女のゼルマでもなく、誰よりも先に伝えたかった人だった。
「ローデリヒ様。……二人目、妊娠したようです。貴方に早く伝えたくて」
彼は私の言葉に虚をつかれたかのように固まった。口元が自然と綻ぶ。答えの分かりきっている問いを彼に投げ掛けた。
「喜んでくれますか?アーベルの時のように」
くしゃりと、行き場をなくした迷子の子供のように彼は顔を歪める。服を掴んだままの私の手を、彼は空いている手でそっと包み込む。壊れ物を扱う様な慎重な手つきで。
「貴女は……、記憶を失う前、それを私に伝えたかったんだな……」
独白のような彼の掠れた小さな声が、空気に溶けて消えた。
彼の骨張った手のひらからのひんやりとした体温が、仕草が、能力を使わなくても、彼が私を心配してくれているのを感じる。
「ああ、勿論だ。私の子供だ。可愛くない訳が無い」
彼が微笑む。その笑みは慈愛に満ちていて、まだまだ若いはずなのに、一人の、父親だった。