この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 結婚に憧れがなかった訳ではない。それを犠牲にしてでも、アルヴォネンの社交界から離れたかった。罪悪感の中、修道院で死んでしまった13人を悼むつもりだった。

 幸せになる事に後ろめたさがあった。同時に、自分が表舞台から降りられる事に安堵していた。
 私は、きっと自分が幸せになれる道を諦めていたのだろう。

 勿論、今でも私が殺してしまった彼らに対しての罪の意識がある。それは永遠に消える事はないだろう。
 一生抱えて生きていくつもりだった。それだけで私の将来は全て完結するだろうと思っていた。

 彼に求婚されて、震える手で結婚誓約書に記入した時。産まれたばかりのアーベルを、初めてこの腕に抱いた時。

 私は確かに将来が広がった気がしたんだ。

 全部全部、彼のおかげだ。
 重ねた手が緊張で震える。言葉が喉に突っかかる。
 気恥しいと、ほんの少しの怖さ、そして聞かなければいけないという急いた気持ちでごちゃごちゃになる。

 それはどこか、恋の告白にも似ていた。


「わ、私、まだローデリヒ様の妻でいていいですか?」
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