この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ローデリヒ様の手を握り締めて、更に言葉を重ねる。彼の体温をすぐ側に感じながら。


「貴方が私を大事に思ってくれているように、私も貴方の事を大事に思っています」


 最後の方は彼の反応が怖くて、俯いてしまった。繋がった手ばかりに目を落としていると、力強く握り返される。

 わたしは、と切り出した彼の声も微かに震えていた。


「私は……、貴女の良い夫に、なれているのだろうか?」


 その言葉に顔を上げる。ローデリヒ様は目を伏せて、眉間に皺を寄せていた。苦しそうな表情に私も思わず顔が歪む。


「勿論です。ローデリヒ様は私の道に光を与えてくれましたから」

「そ……、うか。そうか、良かった……」


 ローデリヒ様は俯いたまま、空いた手でグイッと目元を乱暴に擦る。金色のまつ毛がほんの少しだけ濡れていたのは、気のせいではないはずだ。

 僅かに潤んで充血した青い瞳が、私を捉える。


「貴女がいい。貴女だけが、私の妻であってほしい」
< 278 / 654 >

この作品をシェア

pagetop