この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 意味を理解すると共に、じわじわと口元が緩む。ローデリヒ様もくしゃりと泣きそうになりながら、少年のように微笑んだ。


「はい。不束者ですが、改めてよろしくお願いします」

「ああ。未熟者だが、改めてよろしく頼む」


 手を握り合う。交わした言葉に、感じる温もりに、なんだか仮面夫婦を卒業する事が出来そうな気がしたんだ。

 数秒お互いに見つめあって、ローデリヒ様が意を決したように顔を近づけてくる。何となくこの部屋の雰囲気が変わった。私もまぶたを閉じて――、



「アリサ!!容態はどうじゃ?!」


 部屋の扉が開いた。同時に、ローデリヒ様が驚きのあまり椅子から転げ落ちた。私も唖然としながら扉を開けた人、太った中年男性である国王様を見る。

 国王様は片腕で慣れたようにアーベルを抱き上げていて、その後ろからジギスムントさんが申し訳なさそうな顔で、「すみませんな。この馬鹿が話を聞かなくて……」なんて謝っていた。
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