この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 それに、何度も何度も襲撃を受けてきたけれど、キルシュライト王国に来てからは一気に減ったし。
 今回の襲撃も私がローデリヒ様を突き飛ばさなければ、ピンチになる事はなかったし、やっぱり治した方がいいと思うんだ。


「弊害が大きいな、と。前までならこのままで良いかなって思ってたんですけど、ローデリヒ様に多大な被害が及んでますし」

「まあそうだが……」

「だから、男の人を怖がらないように……。というか、ローデリヒ様に慣れたいなって……」


 やっぱり夫を物理的にボコボコにする妻って、どうかと思う。しかも一応治癒魔法を使える人とはいえ、王太子様だし。

 ローデリヒ様が少し目を見張る。沈黙が流れた。
 アーベルはきょとんとした顔で、大人しく私達の話を聞いている。
 なんで黙り込むんだろう、と不思議に思っていると、彼は驚いた表情のままポツリと零した。


「すごい殺し文句だな……」

「え」


 どこが?なんて聞こうとしたけど、ローデリヒ様はふっと口元を緩める。穏やかな海色の瞳がやや細くなった。片腕でアーベルをしっかり抱いたまま、手のひらを上に向けて差し出してくる。
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