この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
隣国の国王の行く末(他)
パタン、と軽い音をたてて扉が閉まる。
先程まで滞在していた来訪者達の足音が完全に聞こえなくなってしばらくしてから、たっぷりレースが使われたパステルカラーのドレスを身にまとった少女は、ずっとにこにこと微笑んだ顔を一変させた。憤怒の表情に。
「ルーカス。聞いたかしら?」
「ああ。聞いたよ」
すぐ隣にいた青年は、少女を見下ろして顔を歪める。彼のアメジストのような瞳の輝きは暗かった。
「『私は大丈夫だから心配しないで』、ですって!絶対無理してるわ!」
「あのアリサが健気な事を言うなんて……、相当弱っている気がするよ……」
青年――ルーカスは血管が浮かぶ程手のひらを握り締める。つい先刻までいた金髪碧眼の王太子を脳裏に思い浮かべた。真面目で非常に優秀だとは隣国の王太子であるルーカスも充分に知っている。
本来ならばアルヴォネン王国と同じく、一夫多妻制なのに妻は現在王太子妃一人のみ。
若いからそこまでは子供をせっつかれていないのだろうし、既に跡継ぎはいる。本人に浮ついた噂はない。
どこからどう見てもいい男だ、とルーカスは思いかけて――いや、男が男をいい男と称するのは気持ち悪いものがあるなと内心撤回した。
傍から見ればいい夫に見える。ある意味理想の王子様と言えるかもしれない。
ただし、アリサの夫でなければ……という言葉がその前に付いてしまう。
先程まで滞在していた来訪者達の足音が完全に聞こえなくなってしばらくしてから、たっぷりレースが使われたパステルカラーのドレスを身にまとった少女は、ずっとにこにこと微笑んだ顔を一変させた。憤怒の表情に。
「ルーカス。聞いたかしら?」
「ああ。聞いたよ」
すぐ隣にいた青年は、少女を見下ろして顔を歪める。彼のアメジストのような瞳の輝きは暗かった。
「『私は大丈夫だから心配しないで』、ですって!絶対無理してるわ!」
「あのアリサが健気な事を言うなんて……、相当弱っている気がするよ……」
青年――ルーカスは血管が浮かぶ程手のひらを握り締める。つい先刻までいた金髪碧眼の王太子を脳裏に思い浮かべた。真面目で非常に優秀だとは隣国の王太子であるルーカスも充分に知っている。
本来ならばアルヴォネン王国と同じく、一夫多妻制なのに妻は現在王太子妃一人のみ。
若いからそこまでは子供をせっつかれていないのだろうし、既に跡継ぎはいる。本人に浮ついた噂はない。
どこからどう見てもいい男だ、とルーカスは思いかけて――いや、男が男をいい男と称するのは気持ち悪いものがあるなと内心撤回した。
傍から見ればいい夫に見える。ある意味理想の王子様と言えるかもしれない。
ただし、アリサの夫でなければ……という言葉がその前に付いてしまう。