この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 流石に国が傾く前に事を収束させることが出来て、ルーカスは一応安堵している。アリサがキルシュライト王国に嫁ぐという不本意な終わり方だったが。

 だから、基盤をしっかりと整えて、彼女を連れ出しにきた。
 アリサの男に対する恐怖を知っている身としては、一刻も早く迎えに来たかったが。

 ルーカスは彼女が酷い目に合わないように、彼女自身も鍛える方針をとった。スパルタで護身術を叩き込んだのは、アリサの為だった。決して姑のようにネチネチと甚振っていたわけではなかった。

 ティーナの手を引いてソファーに座らせ、ルーカス自身も柔らかいクッションに身を沈める。アメジスト色の瞳を疲れたように閉じた。

 アルヴォネン王国の国王であった父親の、呆気なく終わったその統治の最期がまぶたの裏に浮かぶ。

 アリサがいなくなってから、ルーカスの父親は酷く弱くなった。誰が味方で誰が敵か、目に見えて分かる判断基準等ない。

 少しの猜疑心がどんどん肥大していく様を、国王は自覚していたはずだ。

 そして、自身が止まるに止まれない程、人を信じることができなくなった(・・・・・・・・・・・・・・・)事を分かっていた。

 国王なのだから、アリサが欲しければ徹底的にキルシュライト王国からの縁談も、マンテュサーリ公爵家も拒否すれば良かったのだ。でもそれをルーカスの父親はしなかった。

 恐らく、この状況が不味いものだと、アリサを解放しなければならないと、どこかで悟っていたのだろうと思う。
< 293 / 654 >

この作品をシェア

pagetop