この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 アーベルはちょっとだけ危なっかしい足取りで私のすぐ傍に来ると、ドレスが気になったのか裾の方のレースを小さな手で掴む。薄く透ける生地を不思議そうにジッと見ていたけど、両手でグイグイと引っ張ってくる。


「あ、ちょ、!こら!」


 流石に破ける……!

 慌ててしゃがんでその小さい手を離させようとしたけど、意外とギュッと硬く握り込んで中々離さない。

 いつも優しそうな表情で見守ってくれているイーナさんも、流石に慌てた様子で私の傍にしゃがんでアーベルと目を合わせた。


「アーベル様、めっ!ですよ」

「こーら!アーベル、引っ張っちゃ駄目!」


 イーナ様も少し厳しい表情でアーベルを怒るが、流石に立場的にあまり強く出れないのか、イーナ様自身あまり怒らない人なのか……、とにかく口調が優しい。

 そして私は全然強い口調で怒れなかった。
 だって、すっっっごくキラキラした海色の瞳で、ご機嫌よさそうに口元に笑みを浮かべているアーベルが可愛すぎて、甘やかしてしまう。駄目だこんなの。駄目な傾向だ。
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