この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「ごめんね、ティーナ。ティーナ……も元気そうで良かった」


 ティーナも元気だった?、と言おうとして、邸を思いっきり吹き飛ばそうとしていた姿を思い出して、言葉に詰まった。すごく元気そうでよかったよ。

 ティーナは私と会えたのが余程嬉しかったのか、ダッっと私の傍に早足で歩み寄り、細くて華奢な両腕を広げる。


「ええ!元気だったわ!」

「見ない間に少し大人っぽくなったんじゃない?」

「本当?嬉しいわ!」


 完全に仕草は子供のそれに近かったけれど、二年の経過を感じる。ティーナに軽く両腕を広げると、彼女はギュッと抱きついてきた。

 ふんわりと花の匂いがする。薔薇の匂い。ティーナがずっと好んでいた香水だ。

 一気に血の気が引いた。胃がザワつく。

 あ……、やば。

 慌ててティーナから離れようとしたけど、意外とガッチリホールドされていて抜け出せない。私達の様子を見ていたローデリヒ様が、私の顔色を見て険しい表情を浮かべた。


「おい……」


 ローデリヒ様がティーナを止めようと声を掛けたと同時に、私の我慢の限界が来た。

 もう無理――吐く。

 私は胃の中身をティーナのドレスに盛大にぶちまけた。
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