この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 一瞬、恐ろしい程の沈黙が訪れた。

 誰も何も発しない。考えている事すら伝わってこない。

 私を含めて、皆の頭が真っ白になった瞬間だった。

 ローデリヒ様は私達へ呼び掛けた体勢のまま止まる。ルーカスは軽く口を開けて、何が起こったのかわからない顔をしていた。ゼルマさんも目を丸くして立ち尽くしていた。ティーナに至っては硬直している。


「とーたま!」


 一番最初に動いたのは、状況が全く読めないアーベルだった。ぺちぺちとアーベルに頬を叩かれたローデリヒ様は、ハッと我に返って反射的に声を出す。


「っ!ゼルマ!!あと他に侍女はいないのか?!」


 片手でアーベルを抱き抱えながら、ローデリヒ様が廊下へと声を掛ける。ゼルマさんが慌てて拭くものを持って、私達に駆け寄った。廊下の方からバタバタと複数の足音が聞こえてきたので、きっと増援が来たのだろう。

 ティーナは私にへばり付いたまま、ルーカスと同じような表情をしていた。目の前の現実が信じられないといったように。
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