この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「アリサは元気で動き回っている方が、わたくしは素敵だと思うわ。ずっと昔のアリサに戻って欲しかったのだけれど、それを成したのがわたくしでない事がちょっとだけ悔しいわ」


 一拍おいて、ティーナは続けた。憑き物が落ちたようなスッキリとした表情で。


「でも、わたくし達には出来ない役割だったのね。きっと」


 私は慌てて首を横に振った。アルヴォネンにいた時、ティーナ達にはとても救われたんだ。


「ううん。ティーナも私の事を思ってくれてて、私はずっと助けられてた」

「でも、わたくし達では明るい未来を示すことが出来なかったわ」


 私は言葉に詰まった。確かにあのままでは一生修道院にいただろう。自責の念だけで生きていた可能性だってある。

 何も言えなくなる私に、ティーナはふふっと無垢な少女のように微笑んだ。


「だからね。わたくしは嬉しいの。アリサが幸せになってくれる事が」

「ティーナ……」


 ティーナがテーブル越しに華奢な白い手を伸ばしてくる。私も手を伸ばして握り締めた。
< 311 / 654 >

この作品をシェア

pagetop