この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
一旦部屋から出て、中庭に回る。他の後宮の側室の部屋からは自由に入れないような造りになっているこの庭も、先程までいた部屋の主の為に作らせたものだった。
「……父上」
下手な鼻歌混じりでジョウロを片手に持ち、花に水をやっていたその人――キルシュライト国王に声をかける。彼はローデリヒの存在に気付いていなかったようで、ちょっとびっくりしたように青色の目を丸くして振り返った。
「なんじゃ、いたのか。びっくりしたわい」
「今来たところです」
「そうかそうか」
再びジョウロで水遣りをしながら、国王は頷いた。しばらくその場には水音だけが響いていたが、国王が口を開く。
「今年も花が咲いた。今年は少し暖かくなるのが早かったみたいじゃな。いつもより花が咲くのが早い」
「……そう、みたいですね」
国王がわざわざ枝を摘んで、ローデリヒに満開の花を向ける。
ピンク色の、薔薇だった。
棘が刺さらないよう、慎重に触れる手。慣れた手つきで枝に触れる国王は、得意気に笑った。
「……父上」
下手な鼻歌混じりでジョウロを片手に持ち、花に水をやっていたその人――キルシュライト国王に声をかける。彼はローデリヒの存在に気付いていなかったようで、ちょっとびっくりしたように青色の目を丸くして振り返った。
「なんじゃ、いたのか。びっくりしたわい」
「今来たところです」
「そうかそうか」
再びジョウロで水遣りをしながら、国王は頷いた。しばらくその場には水音だけが響いていたが、国王が口を開く。
「今年も花が咲いた。今年は少し暖かくなるのが早かったみたいじゃな。いつもより花が咲くのが早い」
「……そう、みたいですね」
国王がわざわざ枝を摘んで、ローデリヒに満開の花を向ける。
ピンク色の、薔薇だった。
棘が刺さらないよう、慎重に触れる手。慣れた手つきで枝に触れる国王は、得意気に笑った。