この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ローデリヒは内心首を捻る。そういえば、アリサは花は好きだったのだろうか、と。そういった姿を見た事はない。

「全く……」と何やらぶちぶち文句を言いつつ、国王は手早く薔薇を切っていく。枝の棘の処理も手慣れたものだった。


「跡取りの子供も産まれたばかりじゃし、沢山労ってやるのじゃぞ」


 押し付けるようにして薔薇の花束をローデリヒに渡した国王は、再びジョウロを手に取った。

 花壇の薔薇はすっかり摘まれ、満開に満たない数個の花と、これから咲くであろう蕾ばかり。見た目は寂しくなってしまったが、それに構わずに国王は機嫌良さそうに鼻歌を歌いながら水遣りを再開する。


「……その薔薇はな、ワシがべティーナにあげた花なんじゃ」

「……聞いたことがあります」


 中庭から見える後宮の一室の方を、ローデリヒは一瞥した。今手に持っている薔薇は、先程通ってきた部屋の住民が好きだった花だ。

 国王から貰ったのだと、嬉しそうに話していた。


「プロポーズの意味を込めて、両手いっぱいに花束を抱えながら彼女にあげたんじゃ」

「そうですか」

「その当時のワシは、何も見えてない青二才でのう。初恋に浮かれておったんじゃ」
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