この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ローデリヒは離れに作った屋敷の中で、生まれたばかりの息子の傍に居るであろう妻の姿を思い出す。

 完全に嫌われているのは知っている。
 ローデリヒ自身、どうやって彼女と打ち解けられるかすら分からない。でも、それはそれでいいと思っていた。

 恋愛結婚ではない。政略結婚だと実感出来るようで。

 やや強引に娶った妻と、打ち解けたくない気持ちがない訳でもなかった。
 でも、それ以上に恋愛とかいう底なし沼に落ちる方が嫌だった。それも自分だけが不幸になる訳ではない、底なし沼。

 恋愛の負の側面ばかりを見てきた彼は、いつか自分が落ちるのではないかと臆病にもなっていた。

 ならば、仮面夫婦のままで良いのではないだろうか。

 幸いにもアリサは愛情深いのか、赤子のアーベルを大層可愛がっている。子供に愛を傾けてくれる人ならば、信頼出来る人ならばそれで充分だ。

 だからこそ、ピンク色の薔薇なんて送りたくなかった。

 死んでいった母親と同じ道を辿って欲しくなくて。
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