この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 己とそっくりな顔をして微笑むアーベルに、ローデリヒの瞳は細くなる。だが、これ以上話すつもりはないのだと分かり、早々にため息をひとつついて、追及の手を緩める。

 あまりにも大それた事ならば、おそらく制約の事情を分かっているであろう未来の自分が止めているだろうから。

 しかし、とアーベルの隣に座る国王をチラリとローデリヒは横目で見る。
 全く、どうやら悪い面は似るものらしい。
 アリサがいた時にはふざけていた国王は、今では何やら考え込むような顔をしていた。


「それにしても、お前の能力が優秀そうでよかった。生まれは確固たるものだが、それでも口さがない者達は幾らでもいるからな」


 魔力の扱いに長けているローデリヒは、アーベルの魔力の大きさも感じ取って、一安心したように息を吐く。だが、アーベルはゆっくりと首を横に振った。


「いえ、利便性は全く良くないので、一概に優秀とは言えないかと。ただただ、珍しいだけです」

「だが、その希少性も王族が求心力を持つ所以でもあるからのう。利便性があっても普遍的な能力だと、国民はあまり価値のあるようには思えないのじゃ」


 ずっと沈黙していた国王が、アーベルの言葉に口を開く。
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