この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「アーベル。お主は目的(・・)があると言っておったな?間違ったとはいえ、わざわざ能力を使うということは、それなりの大事がこれから先起こる……あるいはもう起こった後、という事かの?」

「……それは」


 アーベルの瞳が僅かに揺らいだ。だが、それは一瞬の事。


「それは……、僕の口からは申し上げられません」

「つまり、ワシらに言うと問題があるという事かのう」


 仕方ないといったように息をついた国王は、ゆっくりと立ち上がる。そして、アーベルを立ち上がらせて、そのままヒラヒラと軽く手を振る。


「もう夜も遅いんじゃし、とりあえず今は解散じゃ。続きは明日のワシらに任せるかのう。ワシ、もう眠いし」

「ちょ……、父上?!」

「ローデリヒ、最近ろくに寝てないじゃろ?隈が酷いぞ」

「ですが……っ!」

「そういえばアーベル、お主いつ帰るのじゃ?」


 ローデリヒの呼びかけを華麗に無視した国王に、アーベルは気まずそうに答える。


「一日後……、ですかね。滞在時間をコントロールする事は出来ないんです」


 だから、利便性良くないんですよ、とアーベルは困ったように微笑んだ。
 アーベルの能力は、一日よりも長い滞在は不可能であると同時に、一日未満の滞在も出来ない代物だった。
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