この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 少しだけ申し訳ない気分になりながらも、ローデリヒは迷いなく書類を片付けていく。文官達の列を捌いていると、明らかに青白い顔で汗を沢山かいている一人の文官が、震える手で分厚い書類をローデリヒに差し出した。


「……おい。どうした?顔色が悪いぞ」

「い、いえ……、な、なんでも……」


 明らかに体調が悪そうだと、ローデリヒはイーヴォとチラリと目を合わせた。イーヴォは近くに控えていた侍従を呼び、具合の悪そうな文官を医務室まで連れて行くように命じる。


「この書類は決裁しておく。とりあえず診てもらえ」


 そうは言いつつも、医務室に行っている間は時間がかかるだろうと、先に列に並んでいる文官達の書類を片付ける。ある程度こなすと、列は自然となくなっていた。


「うわあ……、随分と量ありますね……」


 イーヴォが面倒くさそうに体調不良の文官が持ってきた書類を見やる。イーヴォが片付ける訳ではないだろう、とローデリヒは呆れた声で突っ込んだ。
 例の文官はまだ戻ってきていない。今のうちに終わらせておこうと、一枚目の書類に目を通して印鑑を押し――二枚目にいこうとして手が止まった。


「……は?」


 ローデリヒがあげた声に、なんだなんだとイーヴォが覗き込んでくる。そして原因が分かって渋面を作った。
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