この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「うわ……、釣書じゃないですか……。なんでこんなもの決裁待ちの書類に紛れ込ませるかなあ?」

「まだ嫁にはやらんぞ」

「いや、殿下には息子しかいないでしょ……。というか、これ、たぶん殿下に向けてですよ。ほら」


 イーヴォが人差し指でとんとんと示すのは、一番上の釣書に記載されている年齢。ローデリヒの年齢よりも3つ下の数字は、間違いなくローデリヒと釣り合うくらいの年頃だ。


「……側室候補か」

「そうでしょうね……。殿下が真正面から受け取らないと踏んだ上で、こうやって回りくどい事をしたんでしょう」


 その悪知恵を他に生かせ、とローデリヒは思わず罵った。誰が入れたのか分かるかもしれない、とバラバラと釣書を眺めるが上は侯爵令嬢、下は男爵令嬢まで身分は様々。共通点といえば皆大人しそう……というか、将来の夫に従順そうな雰囲気という事だろうか。

 どうやら差出人は記憶喪失になる前のアリサが、ローデリヒの好みだと思っているらしかった。

 普段ならば見るつもりどころか、受け取るつもりのない釣書を受け取ってしまったし、不本意ながら見てしまったローデリヒは深々と息を吐いた。

 側室の話はアリサがアーベルを懐妊した事を発表した頃から上がっていた。国王の後宮を幼い頃より見ていたローデリヒは、面倒だと容赦なく断ってきたが。
 この側室候補の釣書を不意打ちのように渡してきた派閥がどこだかも推測出来ない。文官に直接問いつめるしかないか、と渋々席を立った。
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