この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 アーベルとアリサのお腹の子供である。
 記憶喪失だった時のアリサは非常に不安定で、どうやって支えればいいものか全くといっていいほど分からなかった。アリサが立て直してくれたので結果的にはよかったが、あのままではどちらも危なかったのではないかと考えると今でも血の気が引く。

 これから生まれてくる子供の為にも、両親の仲は良い方が良いだろう。

 これは、ローデリヒの勝手な持論だった。
 世間的にどういった事が子供に良い影響を与えるとか、そういった論ではなく、ローデリヒ自身の勝手なもの。

 今でもローデリヒの中に残っている古い記憶。
 かつて、ピンク色の薔薇に囲まれた庭園で、親子で過ごした時間を。

 よく体調を崩しがちだったローデリヒの母親は、庭で遊び回るローデリヒ達を穏やかに見つめて微笑んでいて、
 細身だが逞しい父親の腕の中へと思いっきり飛び込んだ、幼い頃の記憶が、

 一番幸せだった家族の形だと思っているから――。
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