この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「……ゲルストナー様、です」

「……宰相がか?」


 ローデリヒは眉を上げる。
 あの(・・)国王に真っ直ぐ意見をし、あの(・・)国王を長年支え、あの(・・)国王が執務をサボったら真っ先に連れ戻しに王城を駆けずり回る苦労人。

 ジギスムントと仲が良く、……むしろジギスムントと二人して国王に苦労を掛けられているので、戦友感が漂っていた。おそらくジギスムントよりも国王の被害にあっている人である。

 己の父の事で迷惑を掛けまくって申し訳ない気持ち半分、幼い頃からの身近な大人なので、ローデリヒにとっては親近感があった。

 そしてゲルストナー家は公爵位を戴く、臣籍に下った元王族なのである。一応親戚なのだ。


「実はゲルストナー様が面と向かって釣書を渡しても殿下は受け取らないだろうと、だから決裁待ちの書類に紛れ込ませてしまいなさい、と仰いまして……」


 その通りなのでローデリヒは黙るしかなかった。
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