この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「側室候補がお気に召さなかったので?まだまだ殿下の側室になりたいご令嬢はいらっしゃいますよ。エクスナー伯爵家の三番目ご令嬢とか、フィルツ子爵の一番目のご令嬢とか、ライザー子爵家の二番目のご令嬢とか」

「そういう事を言っているのではないことくらい、分かっているだろう」


 腕を組んでギッと睨み付けるローデリヒを涼しい顔で流し、ゲルストナーはゆっくりとペンを置く。そして侍女を呼び寄せ、お茶の支度をするように命じる。


「とりあえず、場所を移しましょうか」


 直系のキルシュライト王族に臆すことなく、傍系の王族は眼鏡を再び上げて提案した。





「どうせ殿下の側室は要らないというわがままでしょう?
そんな子供みたいな事おっしゃらないでください。大体殿下はもうすぐ二十歳ですよ?側室の一人や二人いてもおかしくありません。
幸いにも、もう既に跡取りであるアーベル殿下はいらっしゃいます。そして、妃殿下が懐妊されております。
ですが、キルシュライト王家の傍系は我がゲルストナー家とヴォイルシュ家のみ。我がゲルストナー家はまだしも、ヴォイルシュ家は何代前に王族から離れたと思っているんですか。もうヴォイルシュ家に残る王家の血なんて、出涸らしの紅茶みたいなものですよ。
ローデリヒ殿下には次代へキルシュライト王家の血を繋いでもらわなければなりません」
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