この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 部屋を移し、人払いが済むなり、ゲルストナーは矢継ぎ早に言葉を浴びせた。ローデリヒは慣れたように紅茶の入ったティーカップに口をつける。
 ある程度予測していた展開だった。


「だから、アリサとアーベルの事で精一杯だと言っている。アリサだってアルヴォネン王国から嫁いできた身、この国に大きな後ろ盾がある訳ではないし、肩身の狭い思いもして欲しくない。まだ一部の者にしか言ってないとはいえ、二人目も出来た事だし、側室など差し迫って必要ないだろう」


 何度も使ってきた言葉を今回も使う。
 全て真実だった。執務を終え、アーベルの寝顔を見た後にアリサと一緒に眠る。休みの日はほぼ一日中アーベルに構っていた。

 どこにも側室に割く時間などない。


「むしろ妃殿下が外国から嫁がれてきた為か、側室希望者が多いんですよ。妃殿下の国内の影響力は低い。そして、アーベル殿下の能力も未だに分からないので――」

「黙れ」


 ゲルストナーの言葉にローデリヒの目はスッと細くなった。力を込めてゲルストナーの言葉を遮る。

 ――アーベル殿下の能力も未だに分からないので、ローデリヒの跡継ぎの座は奪える可能性がある。
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