この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ゲルストナーの言っている事は貴族では当たり前だった。
 ローデリヒ自身もよく分かっていた。

 何故なら散々晒されてきた状況だったから。

 キルシュライト王家には求心力が求められる。
 キルシュライト王族は光属性の一族。幼い頃より国民を導く光であれと言い聞かされる。

 誰かを導く道標は、只人では務まらない。


「それ以上はアーベルに対する侮辱だ」

「申し訳ございません」


 あまり悪いと思っていないような調子でゲルストナーは頭を下げる。ローデリヒはそんなゲルストナーの様子に、これ以上言っても無駄だと分かり、諦めたように紅茶のカップに再び口をつけた。


「まあ、それもあるのですが……、実は一番懸念している事がありまして……」


 やや口ごもりながらゲルストナーは眼鏡を上げる。
 なんだ、と目線だけで続きを促すと、非常に言いづらそうに中年の宰相は正直に話した。
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