この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「…………独身に側室を勧められたり、夫婦生活にあれこれ口出しされたくはないな」

「元既婚者です!!陛下が私にめちゃくちゃな仕事の割り振りをしてくるから!!残業ばっかりで嫁に愛想つかされて出ていかれたんですよォッ!!!!」


 白いハンカチを胸ポケットから出して、眼鏡を外しながら涙を拭う。号泣する中年の男を見てローデリヒの良心が苛まれた気がしないでもなかったが、全員が使う切り札であるが故に、日常的な光景と化しているので、もはや慣れきってしまっていた。

 しばらく泣き続けるであろうゲルストナー(国王の被害者)を放置して、ローデリヒが紅茶を楽しもうとティーカップに手を伸ばしたところで、来客の知らせが外から入ってくる。

 その相手の名前を聞いた瞬間、ローデリヒは珍しい、という気持ちと焦りが湧く。滅多に執務室とかには近付かないのに。

 入室してきた女性はブロンドの長い髪を乱し、ピンク色の大きい瞳を不安で揺らしていた。


「ローデリヒ様!どうしよう?!アーベルがいなくなってしまったんです!」
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