この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 そうなのだ。
 安定期に近付いてくると共に、私のお腹は少し膨らんできた。もしかしたら妊娠しているのかな?と思われるくらいの見た目だけど、ずっと毎日見ているお腹が変わっていくのは、ちゃんと赤ちゃんが成長しているんだなって感じる。

 ゼルマさんにとってもお腹の赤ちゃんは曾孫にあたるしね。

 女の子だって教えちゃおうかな、なんて思ったけど、アーベルくんが妹がいるって言っただけだし、まだ伏せておくことにした。
 とても嬉しそうに私の変化を喜ぶゼルマさんに、私の口元も自然と緩む。


「ゼルマさん。お腹触ってくれませんか?」

「え……?……私が、いいのですか?」

「ええ!ゼルマさんに触ってもらいたいんです」


 私が大丈夫だと言っても、躊躇するゼルマさん。だから私は、皺だらけで、シミの多いゼルマさんの手を取った。指はカサついていて、私みたいに手入れされたような肌じゃない。

 沢山働いてきた人の、手だった。
 私が彼女の手をお腹に近付けると、観念したように恐る恐るお腹に触れる。


「曾お祖母(ばあ)様ですよ〜」


 私がお腹の中の赤ちゃんに話し掛ける。
 ゼルマさんはほんの少し目を見張って、やがて目が見えなくなるくらい顔をくしゃりと歪めて笑った。
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