この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 そう、それだけの事。
 邪険にされる訳でもない事のはず、なのに。

 口に入れたいちごのタルトは、先程までは甘かったのに、今は何も味がしなかった。


「気にするでない。ワシも悪かった。ローデリヒは頑固に側室を入れないと言い張っておる。アリサに第二子が出来て、ワシの時とは違って、そんなに風当たりは強くならないはずじゃ」

「あ……、だ、大丈夫です。気にしていませんから……」

「本当かのう?まあ、不安事はローデリヒに相談するがよい。抱え込まれるより、夫として頼られた方があやつも喜ぶじゃろう」


 会話が足りないのは、お互い充分に自覚済みだ。
 次は、間違えたくはない。


「そう……します」


 私が笑って頷くと、国王様も満足そうに頷き返した。


「よし!アーベルが戻ってくるまで、アーベルの分まで食べまくってやるわい」


 そうして国王様は生クリームたっぷりのショートケーキのホールに手を出し――、



 アーベルは一時間経ってもお手洗いから戻ってこなかった。
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