この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】

光の一族。(アーベル)

 やってしまった――、とアーベルは内心顔を引きつらせた。

 母親アリサと即興お茶会ならばまだよかったが、祖父国王が何故か付いてきた。国王の仕事なんて沢山あるだろうに。こんな所で油を売っていていい訳がない。

 それに――、アーベルには時間がなかった。

 元々一日という僅かな時間しかないのだ。多少強引にでもいいから、どうにか時間を作るしかなかったのである。

 しゅんと落ち込んでしまった母親の姿に罪悪感はあったが、フォローするどころではない。そして、一応嘘はついていないのだ。

 お茶会を抜け出してきたが、あらかじめ告げておいたお手洗いに行くのではなく、人気のない適当な建物の影に隠れる。


「《幻影光(イリュージョン)》」


 小さく呟くと、淡い光アーベルの体をうっすらと包む。それは一瞬の出来事で、瞬き一つの間にアーベルの体は周囲の景色と同化した。

 自分に当たる光を意図的に無くすことで、人の視界から自分の姿を消す光魔法。細かい魔法の操作が必要なので、かなり高度な技術を持つ者しか使えない。

 一般的にはすごい(・・・)と称賛されることでも、キルシュライト王家の直系は出来て当たり前の事だった。

 ――確か、王太子の私室はこっちだ……。
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