この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 頭の中に入っている15年後の地図を頼りに、自分の居場所を把握した。
 王城でも人気のない区画からそっと離れ、迷ったという言い訳が聞く位の時間を計りながら駆ける。王太子の私室がそこまで離れていないのが救いだった。

 昨夜、アーベルは見ていた。
 父親の部屋を荒らす国王の姿を。

 その時は一体何をやっているのか……、と思っていたが、アーベルの目的(・・)に関わる重要な書類らしきものを目にした時に、その思考は消えた。

 間違えたのではない。
 この時期を指定してやってきたのだ。代償は大きいが、それでも払う価値はあると思っているから。

 半ば賭けでもあった。
 目的を達成する為の準備が出来るか、出来ないかの賭け。

 途中、何度か侍女や使用人達と出くわした。そして、王城内に幾つも仕掛けられているトラップも、場所は分かっているので躱していく。

 王太子の私室まで誰にも見つからずに済んだ。だが、王太子の私室の扉の両横には、近衛騎士が二人立っている。アーベルと同じ黒色の軍服。だが近衛騎士達は、装飾がやや華美なものだった。

 片方の近衛騎士はまだ若い。きっと出世頭のようなのだろうと予測できる。もう片方は中年で、近衛騎士の制服もかなり着なれているような風格があった。
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